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今回のコラムは猫の肥満細胞腫についてです。

前回の犬の肥満細胞腫のコラムとの共通部分が多くありますので、以下のリンクもあわせてご覧ください。

どうぶつ医療コラム『犬の肥満細胞腫』

 

肥満細胞(=mast cell)とは

骨髄の造血幹細胞由来の細胞で、炎症や免疫反応に関わる細胞です。細胞質の顆粒内にヒスタミン、ヘパリン、セロトニンなどの多くの生理活性物質を含み、生体の防御機構を担っています。人で身近なものだと、花粉症などのアレルギー反応に関わっています。

図1:肥満細胞模式図

 

この細胞が腫瘍化したものが肥満細胞腫です。太っているからなるの?とよく聞かれますが、肥満とは全く関係がありません。

 

猫の肥満細胞腫は猫の腫瘍のうち約2-15%を占める腫瘍であり、以下の図のように分類されています。

 

図2:猫の肥満細胞腫の型別分類

 

より一般的なのは皮膚型です。近年の報告では、シャム、バーミーズ、メインクーン、ラグドール、ロシアンブルーなどが好発品種とされています。皮膚型のうち60%ほどを高分化型が占めており、良性の挙動をとります。低分化型の割合は約20~30%です。低分化型は細胞形態的には悪性ですが、良性の挙動を取るものも多いです。約10~20%で認められる非定型型は主に4歳以下のシャムに発生し、自然退縮することが多いと言われています。

 

イメージ

*高分化→成熟しており増殖しにくい=悪性度が低い

*低分化→未成熟で増殖しやすい=悪性度が高い

 

内蔵型脾臓型消化管型に分類され、発見時に高率に転移を起こしています。脾臓型では脾臓に発生し、肝臓への転移や肥満細胞血症(全身の血液に腫瘍細胞が見られる)が認められることが多いです。消化管型は主に小腸に発生し、広範囲に転移するなど悪性度が高く予後不良と考えられています。

図3:猫の指間部に発生した皮膚型肥満細胞腫(高分化型)

 

症状

皮膚型では基本的に皮膚腫瘤以外は無症状ということが多いです。悪性度の高い肥満細胞腫では、食欲不振、体重減少、嘔吐下痢、通過障害といった消化器症状、腫瘍随伴症候群としてアナフィラキシーショック、出血、消化管の潰瘍、貧血、胸水腹水などが認められることがあります。

 

診断

腫瘤の細胞診で診断が可能です。

図4:猫の皮膚肥満細胞腫の細胞(高分化型)

 

細胞診で診断がつかない場合、組織診断が必要です。血液検査や血液凝固検査、X線検査、CT 検査、超音波検査、骨髄生検などで転移の有無の確認、腫瘍のステージ分類を行います。また分子標的薬による治療を見越して、c-KIT遺伝子変異の検査を実施する場合もあります。

 

治療

共通して外科手術が第1選択の治療です。悪性度の高いもの、転移病変のあるものに対しては化学療法(プレドニゾロンやロムスチン、イマチニブ、トセラニブなどの分子標的薬)を状況に応じて組み合わせて行います。化学療法の効果に関しては未知の部分やばらつきが多く、今後の研究に注目が必要です。化学療法の副作用の管理も重要です。

 

皮膚型

犬では腫瘍の辺縁を広く切り取るのが良いとされていますが、猫ではどのくらい切り取ると再発しにくいかという明確な基準はなく、切除マージン(切り取る大きさ)は予後に関係ないという報告もあります。外科手術単独で良好な予後が得られることが多いです。

 

脾臓型

脾臓摘出などの治療で長期生存(中央生存期間132~865日)が認められているという報告があります。手術時に輸血や腫瘍随伴症候群の予防が必要になることが多いです。

 

消化管型

診断時点で既に広範囲に病変が拡がっており、外科手術が不適応となる場合が多いです。病変が消化管の一部に限局している場合は外科手術が可能ですが、一般的に術後の生存期間は短い(3ヶ月以内)です。近年、外科切除や化学療法により比較的長い生存(中央生存期間518日)が認められたという報告も出てきています。

 

腫瘍随伴症候群の治療

顆粒放出による症状を抑えるために、抗ヒスタミン薬、ステロイド剤、粘膜保護剤などを使用します。細胞診の検査時に必要な場合もあります。

 

院長からのひとこと

猫の肥満細胞腫は良性の挙動を取るものがほとんどですが、油断せず、早期診断早期治療を目指しましょう。悪性の挙動を取るものに関しても、治療法の研究は進んでいますので、一度ご相談ください。

2021年5月17日更新

犬の肥満細胞腫は日常の診療でよく遭遇する腫瘍で、皮膚腫瘍の約2割を占めていると言われています。また、皮膚だけでなく全身の様々な部位(皮下や内臓など)にも発生します。犬種や発生部位、グレードなどで差はありますが、基本的には転移性を持つ悪性腫瘍として扱います。

 

 

 

肥満細胞(=mast cell)とは

骨髄の造血幹細胞由来の細胞で、炎症や免疫反応に関わる細胞です。細胞質の顆粒内にヒスタミン、ヘパリン、セロトニンなどの多くの生理活性物質を含み、生体の防御機構を担っています。人で身近なものだと、花粉症などのアレルギー反応に関わっています。

 

 

この細胞が腫瘍化したものが肥満細胞腫です。太っているからなるの?とよく聞かれますが、肥満とは全く関係がありません。

 

肥満細胞腫の過去の報告を世界的に見ると、ボクサー、ボストンテリア、パグ、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、コッカースパニエル、シュナウザーなどが好発犬種とされています。2019年の東大の論文によると、日本で肥満細胞腫と診断された233例のうち多い犬種はラブラドールレトリーバー、雑種犬、パグだったそうです。日本では柴犬でも発生が多いと言われています。

 

 

症状

場所にもよりますが腫瘍が小さければ無症状のことが多いです。腫瘍が大きくなると一般的な腫瘍の症状(疼痛、食欲不振、体重減少など)が出てきます。肥満細胞腫に特徴的な症状は、前述の顆粒が刺激により放出されておこる腫瘍随伴症候群(皮膚の発赤、掻痒、浮腫、皮下出血などのダリエ徴候やアナフィラキシーショック、肺水腫、胃潰瘍など)です。

 

 

 

診断

細胞診が有用な検査です。細胞診とは、注射針でできものから少し細胞を採取し、顕微鏡で細胞の形態を診る検査です。通常、麻酔もいらず痛みもほとんどありません。肥満細胞腫は細胞内に特徴的な顆粒を持つため、細胞診で診断が可能です。治療方針や予後判定の参考になる所属リンパ節、脾臓肝臓への転移やc-KIT遺伝子変異の有無(悪性度の参考、分子標的薬の効果予測)についても細胞診標本である程度の診断が可能です。

 

 

これらを画像所見(エコー、レントゲン、CT)や肉眼所見、臨床症状などとともに総合的に判断し、腫瘍のステージ決めを行います。確定診断には手術で摘出後の病理組織診断が必要です。

 

治療

外科手術、放射線療法、化学療法を状況に応じて組み合わせて行います。また、腫瘍随伴症候群の治療も必要です。

 

外科手術

悪性度の高いものでは、腫瘍の周囲をかなり広く(3cm以上)深く(筋膜や筋肉など周囲の構造物ごと)切除しますので、腫瘍が小さかったとしても大きな手術になります。これだけ大きく切除する理由としては、以下の模式図のように、肥満細胞腫の細胞は顕微鏡で見ると肉眼で見えている部分よりも広範囲に存在するからです。初回の手術が根治の一番のチャンスですので、確実に切除を狙います。ただし浸潤性が強いものの場合、全て切除することが不可能な場合もあります。

 

 

 

 

一方、近年の研究では、悪性度の低いものでは腫瘍の周囲2cm程度の切除や肉眼病変の辺縁部切除でも良い成績が得られていることから、術前の診断をしっかり行い、できるだけ犬に負担を与えない、かつ根治を狙える手術計画を立てる必要があります。

 

また最近議論されているポイントは、腫瘍が転移したリンパ節に対する扱いです。これまでリンパ節摘出は診断目的とされていましたが、近年、転移のあるリンパ節を摘出した症例で治療成績の改善が認められたという報告が複数出ており、治療目的として推奨され始めています。

 

放射線療法

外科手術後に残った顕微鏡的病変に対しての放射線照射が有効と言われています。二次診療施設への紹介が必要ですので、放射線を治療計画に組み込むのであれば事前に連携を取っておく必要があります。

 

 

化学療法

悪性度が高い場合や外科手術で全ての細胞が切除できない場合、転移病変が存在する場合などに適用されます。ビンブラスチン、ロムスチン、プレドニゾロンといった従来の抗がん剤に加え、イマチニブ、トセラニブといった分子標的薬が使用可能です。治療前にc-KIT遺伝子変異の有無を調べておくと良いでしょう。

 

化学療法に関しては、副作用の管理も重要です。体調をみながらプロトコルを調整していきます。

 

腫瘍随伴症候群の治療

顆粒放出による症状を抑えるために、抗ヒスタミン薬、ステロイド剤、粘膜保護剤などを使用します。細胞診の検査時に必要な場合もあります。

 

 

 

予後は成長速度、発生部位、全身状態や局所再発の有無、腫瘍のステージ、組織学的グレード、遺伝子変異、転移の有無などによって様々です。

 

 

 

院長からのひとこと

肥満細胞腫は「偉大なる詐欺師」と言われる厄介な腫瘍です。様々な出現パターンを持ち、多発していても悪性度が低かったり、小さくて一見悪性度が低そうに見えても転移を起こし命に関わったりすることがありますので、「ただのイボかな」と見た目で判断して放置せず、一度精密検査をすることをお勧めします。

 

2021年2月16日更新

 

 

 

病気で亡くなる猫ちゃんの1/3が、

 

がん(悪性腫瘍)で、

 

がんのうち一番多いのが乳がん(悪性の乳腺腫瘍)であることが知られています。

 

乳がんで苦しむ猫を少しでも減らしたいとスタートしたのが、

 

キャットリボン運動』です。

 

詳細はこちらをどうぞ→HP:https://catribbon.jp

 

 

[運営団体]  JVCOG(一般社団法人日本獣医がん臨床研究グループ)

 

 

 

キャットリボン運動では3つの取り組みを行います。

 

1 猫のご家族に正しい知識を発信して、早期発見に協力してもらうこと

(できるだけ小さいうちに発見し治療する)

 

2 乳がんの標準治療を普及させること (片側・両側乳腺切除術等)

 

3 乳がん治療のエビデンス強化のための研究に力を入れていくこと

 

 

 

当院はこの活動に賛同して、キャットリボン運動の提携動物病院となりました。

 

 

猫の乳がんの予防啓発や早期発見、そして適切な治療に努めてまいります。

 

また、病院受付ではキャットリボン運動のチャリティグッズのピンバッチ(税込1000円)を置いておりますので、寄付にご協力頂けますと幸いです。

 

 

猫の乳がんに関しての疑問や、お腹に小さなしこりがあるかもしれないなど、

 

 

気になることがあればお気軽にご相談ください。

 

 

 

武井動物病院

2020年1月27日更新

 

猫の乳腺が何個(何対)あるかご存知でしょうか。

 

答えは8個(4対)です。乳腺は単独で存在しているわけではなく、血管やリンパ管が網目のように走っています。

 

 

乳腺腫瘍はこの乳腺の組織の一部が増殖して、しこりができる病気です。

 

腫瘍には良性のものもあれば、他の臓器などに転移する悪性のものもあります。

 

 

乳腺腫瘍は猫に発生する腫瘍のうち、皮膚の腫瘍、造血系の腫瘍に次いで3番目に多い腫瘍です。

 

犬では良性と悪性の割合は半々ですが、猫では約80~90%が悪性で、飼い主さんが気づいた時には全身に転移をしていることも多いのが特徴です。

 

 

発生する年齢としては中〜高齢ですがどの年齢にも発生する可能性があります。

 

 

発生には性ホルモンが関与していると考えられています。

 

 

したがって発生のリスクを減らすために早期の避妊手術が有効であるとされています。

 

 

【症状】

 

乳房に結節といって「しこり」ができます。

 

1つのこともあれば複数ができる場合もあり、その範囲も様々です。

 

中には炎症を起こして赤くなったり壊死して見た目にわかるものもありますが、毛で覆われていることもあり飼い主さんは気づかないことも多く、動物病院での健康診断などでの触診で発見されることも多いです。

 

 

全身症状については良性か悪性か、転移の有無、進行度により異なります。

 

 

【診断】

 

細胞診で病変部分や隣接するリンパ節などから細胞をとり観察します。

 

猫では悪性の割合が多く、転移している可能性が考えられるため、X線検査で肺やリンパ節などへの転移を確認したり、超音波検査でお腹の臓器に転移がないか確認します。

 

最終的な確定診断は手術で腫瘍部分を切除し、顕微鏡を使って観察する病理検査を行うことで行います。

 

【治療】

基本的には外科手術により腫瘍を摘出します。

 

猫の場合は悪性である可能性が高くまた再発も多いため、見えている腫瘍だけを切り取るのではなく、片側あるいは両側の乳腺全体を摘出する方法も選択されます。

 

はじめにお話ししたように、乳腺には血管やリンパ管が分布しているためです。

 

既に肺や肝臓など全身への転移が認められた場合は、残念ながら手術をして乳腺を摘出しても完治はのぞめません。

 

転移があっても、腫瘍部分が炎症を起こして腫れたり壊死したりする場合は、QOL向上のために手術を行って腫瘍部分を摘出するという選択肢もあります。

 

場合によっては術後の補助療法や緩和治療として、化学療法や免疫療法を行うこともあります。

 

 

【予防】

 

早期の避妊手術(できれば6ヶ月以下、遅くとも1歳以下)により乳腺腫瘍の発生リスクを減らすことができます。

2019年3月17日更新

 

犬の乳腺は10個(5対)あり、血管やリンパ管が網目のように分布しています。

乳腺腫瘍は犬でよく認められる腫瘍で全腫瘍のうち半分程度を占めるとの報告があります。

 

 

乳腺腫瘍はこの乳腺の組織の一部が増殖して、しこりができる病気です。

 

腫瘍には良性のものもあれば、他の臓器などに転移する悪性のものもあります。犬では良性と悪性の比率は半々です。

 

悪性の発生率は大型犬の方が小型犬より多いとされています。

 

 

発生する年齢としては中〜高齢ですがどの年齢にも発生する可能性があります。

 

 

発生には性ホルモンが関与していると考えられています。したがって発生のリスクを減らすために早期の避妊手術が有効であるとされています。

 

【症状】

乳房に結節といって「しこり」ができます。

 

1つのこともあれば複数ができる場合もあり、その範囲も様々です。

 

一般的には良性では小さくて周囲との境界が明瞭で硬く触れます。

 

悪性腫瘍は急速に大きくなり境界も分りにくく壊死したり出血したりすることがあります。

 

 

悪性腫瘍のうち炎症性乳癌は特徴的な症状を示します。複数の乳腺に発生して触ると硬く熱を持ち赤く浮腫を起こし痛みも伴います。

 

 

全身症状については良性か悪性か、転移の有無、進行度により異なります。

 

 

【診断】

 

細胞診で病変部分や隣接するリンパ節などから細胞をとり観察します。

 

X線検査で肺やリンパ節などへの転移を確認したり、超音波検査でお腹の臓器に転移がないか確認します。

 

最終的な確定診断は手術で腫瘍部分を切除し、顕微鏡を使って観察する病理検査を行うことで行います。

 

【治療】

外科手術が第一選択の治療法です。

 

腫瘍の大きさや部位、進行度、悪性度、どうぶつの年齢や全身状態によって術式を選択し、部分摘出片側または両側乳腺摘出などを行います。

 

 

炎症性乳癌や全身への転移が見られる場合は、残念ながら手術をしても完治することはないため手術は選択されないのが一般的です。

 

 

場合によっては術後の補助治療や緩和治療として、化学療法や免疫療法などを行うことがあります。

 

【予防】

初回発情前もしくは1回目までの避妊手術により乳腺腫瘍の発生リスクを減らすことができるため、早期の避妊手術が望まれます。

 

また悪性でも腫瘍の大きさが小さいうちに治療できると予後に影響するという研究結果もあるので、早期発見が大切です。

2019年3月17日更新