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どうぶつ医療コラム『膀胱移行上皮癌』

今回のコラムは、膀胱で一番多い腫瘍とされている膀胱移行上皮癌についてです。

移行上皮癌は局所浸潤(周辺に拡大)や遠隔転移(遠くに飛ぶ)をしやすい腫瘍で、根治が難しい腫瘍ではありますが、早期発見し、尿の通り道を確保できれば、高いQOLを維持しつつ進行を遅らせることも可能です。

繰り返される血尿、頻尿など、治りにくい慢性症状でお悩みの子は一度診察を受けてみることをお勧めします。

膀胱移行上皮癌とは

膀胱粘膜上皮細胞から発生する悪性腫瘍であり、尿路系の悪性腫瘍では最も頻度が高いと言われています。また、リンパ節や肺、骨、腎臓など様々な臓器に転移しやすく、発見時に約20%、死亡時に約60%の症例で転移がみられるとの報告があります。

 症状

初期の病変は頻尿、血尿など、一般的な膀胱炎や尿石症で見られる症状と似ています。進行すると、尿路の閉塞による排尿障害(尿がうまく出せない)がみられるようになり、QOLを大きく損ないます。完全な尿路閉塞が起こると、急性腎不全を引き起こし、命に関わります。また、転移の部位によって、呼吸困難(肺転移)、疼痛(骨転移)などが見られます。

診断

病院では、まず第一にエコー検査で膀胱や周囲組織の形態を確認します。可能であれば尿検査も実施し、悪い細胞が出てきていないか確認します。

そこで移行上皮癌が疑われる場合には、腫瘍をエコーで見ながら尿道カテーテルを挿入し、刺激、吸引することで、尿(膀胱洗浄液)、腫瘍細胞を採取します。その細胞で細胞診を行うと同時に、採取した細胞を集めてセルブロック(セルパック)という塊を作り、病理組織検査を実施します。

得られた尿(膀胱洗浄液)で腫瘍マーカーを調べるのも非常に有効です。現在BRAF遺伝子変異検査V-BTA検査HER2検査などが利用できます。

その後、血液検査、X線検査やCT検査で全身の状態や転移、浸潤の状態を把握し、腫瘍のステージを決めていきます。

治療

外科療法

膀胱部分摘出:腫瘍が一部に限局している場合に行います。膀胱は80%まで切除可能と言われており、機能は温存されますが、膀胱を残している分再発リスクは高いです。

膀胱全摘出:腫瘍の浸潤が強く、膀胱三角部を含む膀胱全域に拡大している場合に根治目的、緩和目的で行います。術後は尿路変更により尿失禁が続くため、生涯おむつによる管理が必要です。

化学療法

・消炎鎮痛剤などで使用されるNSAIDs:ピロキシカム、フィロコキシブなど

・いわゆる抗がん剤:ミトキサントロン、ドキソルビシン、ビンブラスチン、クロラムブシルなど

・分子標的薬:ラパチニブ、トセラニブなど

*ラパチニブは人の乳癌に用いられている薬剤です。近年の研究でHER2を発現している犬の膀胱移行上皮癌に対して高い治療効果が認められており、注目されています。

これらの薬剤を個々の状態を見極めながら組み合わせてプロトコルを作成し、治療を行います。

放射線療法

・あまり一般的ではないですが、緩和的治療として使われることがあります。今後の科学技術の発達により治療成績の向上が期待されています。

院長からのひとこと

慢性の泌尿器症状がある場合、特に高齢の子ではすぐにお近くの動物病院に相談してください。膀胱の超音波検査は痛みや負担のない検査ですので、健康診断時にも見ておくのが良いでしょう。

院長 田中啓之(獣医腫瘍科認定医Ⅱ種)


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